9.決断のとき

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思い出したらため息が出た。 あの時、ただ一方的に世間話をすることしかできなかったことを、俺は記憶から消し去った。 ただのバイト。 もう会うこともない。 だからここにいる誰かが、こいつの周りにいる誰かが、なんとかしてやってくれたらいいなと。 無責任に思うことで自分を解き放った。 そしてバイト代を貰って、きれいさっぱり、あの雪だるまの衣装とともに忘却のかなたへと押しやった。 なんてこった。 そんな俺を藤沼は覚えていたというのか。 話すネタがつきて、年上らしいことを言ってやろうと思って放ったあの一言を守ってきたなんて。 なんだよ、それ。 聞いてねぇと思ってたから、あんなこと簡単に言えたんだ。 笑ってろ、だなんて。 世の中笑ってさえいればたいていのことはうまくいく。 だから笑ってろ。 ……バカだよな、俺。
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