6631人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………センセ?」
小さな声が聞こえて振り返る。
布団にくるまった顔が俺を捉えて、飛び起きた。
「センセー、なんで!?」
「よぉ、起きたか」
小さく笑みを作って、歩み寄る。
しゃがんで目線を合わせたら、唇の傷に気がついた。
「どした?コレ」
切れて固まった血がこびりついている。
それにそっと指を伸ばせば、びくりと大きく体が揺れた。
「悪ぃ、痛いか?」
「……ぅうん」
あわてて腕をひっこめたが、藤沼は深く俯いてしまった。
立てた膝に顔を埋めて、ぎゅっと強く脚を抱きしめて。
小さく、小さく。
静まり返った部屋の中、エアコンの音が大きく響く。
ほんと何もないんだよな、この部屋。
やけに広い空間が、よけいにもの哀しさをひきたてる。
「センセ……俺……」
震える声が俺を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!