9.決断のとき

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「…………センセ?」 小さな声が聞こえて振り返る。 布団にくるまった顔が俺を捉えて、飛び起きた。 「センセー、なんで!?」 「よぉ、起きたか」 小さく笑みを作って、歩み寄る。 しゃがんで目線を合わせたら、唇の傷に気がついた。 「どした?コレ」 切れて固まった血がこびりついている。 それにそっと指を伸ばせば、びくりと大きく体が揺れた。 「悪ぃ、痛いか?」 「……ぅうん」 あわてて腕をひっこめたが、藤沼は深く俯いてしまった。 立てた膝に顔を埋めて、ぎゅっと強く脚を抱きしめて。 小さく、小さく。 静まり返った部屋の中、エアコンの音が大きく響く。 ほんと何もないんだよな、この部屋。 やけに広い空間が、よけいにもの哀しさをひきたてる。 「センセ……俺……」 震える声が俺を呼んだ。
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