9.決断のとき

26/33
前へ
/285ページ
次へ
顔を上げた藤沼の、血色の悪い頬が目に入る。 最近は健康そうな肌艶していたのに、昔のあいつと重なった。 それでも違うのは、少し大人になった顔と表情。 俺を見据える瞳は、何か言いたげに揺れていて。 震える唇が笑みを形作る。 「……俺ね、センセ」 胸が締め付けられて、息が苦しい。 俺が笑っていろなんて言ったから。 だから、こいつはこんな風に、こうやって無理やり笑ってきたんだ。 ごめん、藤沼。 「俺、センセーが好き」 …………え? 思考が止まった。 おまえはまだ、俺に言うのか? 「一ヶ月、すごくすごく、楽しかった」 俺はおまえを忘れていたのに。 「ありがと、センセー」 まだ俺が好きなのか? 「大好き。…………バイバイ」
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6631人が本棚に入れています
本棚に追加