9.決断のとき

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濡れた瞳が大きく見開かれる。 唇がわなわなと震えて、笑顔を作ろうとしているのにできなくて。 そんな泣きそうな顔のまま、俺を呼ぶ。 「セン、セー……。いいの? 俺、センセーの、こと、好きで……ぃいの?」 「ああ」 いいとか悪いとかじゃない。 俺がそうして欲しいんだ。 こんな風に俺の知らないところで、一人ぼっちで生きているのかと思ったら。 苦しくて、くやしくて、わめきたくなる。 守ってやるとか、幸せにしてやるとか、そんな約束はできないけど。 でも…… 「一人より二人のほうがいいだろう?」 俺はずっと一人が好きだったのに、こいつがまとわりついてくるから、すっかりそれに慣れてしまった。 たったひと月で、俺を変えたんだよ、おまえは。 「……俺、もぅ……一人は嫌だ」 俺の袖を握り締める腕が震えていて。 ぽろりぽろりと涙が落ちる。 なんだよ、ちくしょう。 抱きしめたくなるじゃないか。
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