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土曜は昼まで一緒に過ごして、家に帰った。
帰ると言ったら藤沼は、一瞬だけ寂しそうな顔をしてから、笑顔を作った。
俺の前では無理するなって、これからきっちり教えこまねぇとな。
「やることあるから今日は帰るけど、明日の朝、遊びに来い」
作り笑いの頬をつまんでそう言ってやると、今度は本物の笑顔になる。
うん、それでいい。
そうして日曜もまったりと過ごし、明けて月曜日。
俺は今、理事長室の前にいる。
隣には藤沼、胸ポケットには書きたての退職願。
ヨシ、行くぞ。
「失礼します」
ノックをして扉を開ける。
中に居たのは理事長と、校長と教頭に、正副担任。
一番末席に立つ祐希と、視線が合ったから小さくうなずいた。
「おはよう。間宮先生、藤沼君。気持ちは決まったかね?」
大きな机を挟んで、理事長の前に立つ。
それにしても高そうな机だな。
スーツも腕時計も高級品みたいだし、これであの腹がなかったらなぁ。
そこそこ素敵なおじさまだろうに。
残念だ。
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