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「理事長、あの書類、何ですか?」
「ん? 言ってなかったっけ? 雇用契約書」
雇用……契約?
「そういうことで、4月から正規の職員として働いてちょうだい。
定年は65だから、それまでよろしくねん」
にっこり笑顔で言われてしまった。
理事長のメタボ腹を見つめること、しばし。
「……はあ!? ちょっ、おかしいでしょ、それ」
俺は退職願出したんだぞ。
そもそも、臨時教員だったんだし。
それがなんで正式採用になるんだ。
「理事長!どういうことですか」
「センセー、先生辞めなくていいの? ホントに? よかったぁ」
ずっと黙っていた藤沼が、俺の腕を掴んでくる。
飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでくれる姿はうれしいが、それどころじゃない。
ちょっと待て。
「藤沼、落ち着け。……理事、長?」
一瞬目を離したすきに、狸が消えた。
そして、ジョリジョリジョリーと小気味のいい機械音が聞こえてきて、目をやると。
「理事長、それ!俺の退職願!」
なにシュレッダーにかけてんだよ!
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