10.終わりよければ全て良し?

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「理事長、あの書類、何ですか?」 「ん? 言ってなかったっけ? 雇用契約書」 雇用……契約? 「そういうことで、4月から正規の職員として働いてちょうだい。 定年は65だから、それまでよろしくねん」 にっこり笑顔で言われてしまった。 理事長のメタボ腹を見つめること、しばし。 「……はあ!? ちょっ、おかしいでしょ、それ」 俺は退職願出したんだぞ。 そもそも、臨時教員だったんだし。 それがなんで正式採用になるんだ。 「理事長!どういうことですか」 「センセー、先生辞めなくていいの? ホントに? よかったぁ」 ずっと黙っていた藤沼が、俺の腕を掴んでくる。 飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでくれる姿はうれしいが、それどころじゃない。 ちょっと待て。 「藤沼、落ち着け。……理事、長?」 一瞬目を離したすきに、狸が消えた。 そして、ジョリジョリジョリーと小気味のいい機械音が聞こえてきて、目をやると。 「理事長、それ!俺の退職願!」 なにシュレッダーにかけてんだよ!
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