たとえば君が想うとき

10/19
前へ
/19ページ
次へ
 一緒に暮らしてからは、本当にあっという間に季節が通り過ぎていった。ついこのあいだ春が来て、夏が来たと思ったら秋が来て、今年の冬は雪降るかなーなんて思っていたら、もうすぐ先に春が顔を出しているんだ。  リレーみたいだねって言ったら、季節も大変だねって笑ってくれた君が瞼の裏に浮かぶよ。  一緒に帰って、一緒にご飯を食べて、一緒の布団で寝て。こんなに幸せでいいのかなって思っていたら隣にいた君がふと、こんなに幸せでいいのかなって呟いて、僕とおんなじだと思って思わず吹き出したら、また君に怒られたりしていたね。  一日一日が大切で、本当に幸せだった。子供は二人がいいとか三人がいいとか、君がサッカーチーム作れるくらい欲しいって言い出して、それは勘弁して欲しいって言ったりして。    新作のケーキ作りに行き詰まっていた君をなんとか励ましてあげたくて、僕も協力しようとシュークリームを作ったら、なんだかおまんじゅうみたいになっちゃって、君に大笑いされたりしたね。  小さな島だから、僕達の付き合いは口に出さずともみんな知ってしまうわけであって、そう考えると、『店長ー』と呼んでいたお客さんが僕を見て『旦那ー』と呼んだのも仕方ないことなのかなって思ったりして。  そういうなんでもない日々が、廻りだした僕の世界の中心になっていったんだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加