たとえば君が想うとき

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   そういえば、君は覚えているかな。僕が君の誕生日にデンファレをプレゼントしたこと。まあまあ年を重ねてきた人生の中で、花を買ったのは初めてだった。通販でこっそり取り寄せてプレゼントして、君はどんな反応をするのかなって柄にもなくわくわくしていたら、君の第一声に血の気が引いたのを今でも思い出すよ。 『わあ! デンファレだあー! ありがとう!』  君はとても喜んでいたけれど、僕は意識が遠ざかりそうだった。だって僕は、そのデンファレとやらの花を胡蝶蘭だと思って買ったのだから。  君が前にお気に入りの花屋さんで胡蝶蘭が好きだと言っていたのを聞いて、僕はそれをプレゼントするつもりだったのに。  通販で買っておきながら、どうして気付かなかったんだろう。きっと見た目も胡蝶蘭とそっくりだったから、関連商品として出てきていたのかもしれない。なんて情けないんだろう。  君には喜んでもらえてよかったなんて見栄を張ってしまったけど、あれ、本当は胡蝶蘭をプレゼントするつもりだったんだ。本当にごめん。次の日君に靴をプレゼントしたのは、そのせめてもの償いでした。  楽しかったなあ。君といる日々の全てが、まるで御伽噺のように幸せで。ずっと続きますようにと何度も願った。七夕にも、クリスマスにも、お正月にも、しまいには全然関係のない勤労感謝の日にまで願っていた。  だけど、きっと僕は分かっていたはずなんだ。願いが叶うなんて奇跡は簡単に起こるものではないことくらい。そうだな。もしかしたら、普段は神様さまなんて全く信仰してないくせして、そんなときばかり願ってしまっていたから機嫌をそこねたのかもしれない。  謝ったら許してもらえるだろうか。なんてね。
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