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だからもう泣かないでと、君の髪へ手を伸ばす。けれど伸ばした僕の指先は、蜃気楼のようにゆらりと泳いだ。 そのままさらりと散っていく様子は、まるでいつか君が無邪気に飛ばした綿毛のようで。
だけど僕はそれでも君へ手を伸ばす。届いているのに届かない。ちょっと悔しいけど、大丈夫だよ。それは防波堤から見た町の景色とおんなじだから。見えなくても、ちゃんとあるものだから。
またね、って言いたいな。そうしたらきっと次がある。だけど今の僕達には、その言葉はあっちゃいけない。またねは約束になってしまうから。最後の最後に、僕はとんでもなく酷いことを君に告げることになりそうだ。
ごめんね。だけどこれは、僕の精一杯の優しさ。精一杯の強がり。
好きだよ。君の事が、とっても好きだ。何回言っても言い足りない。
大好き。
大好き。
大好きだったよ。
だから、ね……。
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