たとえば君が想うとき

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『店長ー。今日の日替わりパスタはー?』 『はあい、店長ですよー! 今日はイカとキノコの明太クリームでーす!』  お客さんに店長と呼ばれるたび、はあい店長ですよーと答えるのが君の癖だったね。僕は最初に聞いたとき耳を疑ったけど、慣れればなんてことなかった。小さな体でせかせか動き回り、店長と呼ばれれば大きな声で返事をして振り返る。それは君なりの接客で、そういう対応をされて嫌な気分になる人なんていなかった。  僕はそれなりに背は大きかったから、上の棚を開けたり重たいものを運んだり、手も君より長かったからいっぱい食器を乗せて下げたりとか。うん、大きくて良かった。接客もしてたけど、僕はそんなに得意では無かった。それでもみんな段々と僕の顔を覚えてくれて、すぐに打ち解けることが出来たんだ。 『みんな君のこと大好きみたいだね~』  いたずらっ子みたいに笑いながら僕の顔を覗きこんできた君は、本当に嬉しそうにそう言ってくれた。都会にいたときは毎日数え切れないほどの人に呑まれて生きてきたのに、何千何万と見てきた人達の、どれにも君は当てはまらなかった。  小さいのに頼りがいがあって、だけど時々紅茶とウーロン茶を間違っちゃったりして。怒られればしょんぼりして、帰ってくるとウーロン茶と紅茶を何度も眺めて、もう間違えないって腰に手を当てていた。そんな姿を見るたびに影で吹き出していた僕は、よく君に怒られていたね。
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