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そうやって穏やかな日々が一ヶ月、三ヶ月、半年とあっという間に走り抜けていったある日、僕はようやく、君に両親がいないことを知った。元は都会に住んでいたけれど、母が病を患い、療養のために家族三人で島に移住したのだと。結局母は一年足らずで亡くなってしまい、このレストランで生計を立てていた父も脳梗塞であっという間に亡くなってしまったらしい。
それからすぐに店を継いでがむしゃらにやってきたものの、父に恥じないよううまくやれているか、毎日寝る前に自身へ問いかけるのだ、と。そんな話を変わらない笑顔で語っていた君を思い出すと、僕は今でも心臓が痛くなる。
それに凄く恥ずかしかった。悲観になり、自分をつまらない人間で可哀相だと思っていた自分自身が。笑っちゃうよね。そうしてきたのは他でもない自分自身なのに。いつも変わらない笑顔の君を見て、きっと毎日が楽しいんだろうななんて考えを僕は勝手に持ってしまっていたんだ。
楽しいだけのはずがなかった。いつも笑っている人が、いつも強いわけではなかった。こんなに小さいのに。僕と同じ年なのに。
『大丈夫、君はとても頑張っているよ。僕は君の店が大好きだから』
結局そんな月並みな言葉しか言えなかった。けれど君は僕の顔を見つめて、少し滲んだ涙を拭いとりながら、ありがとうと言ったんだ。
そこで僕はようやく気付いた。君の店が好きで、この島が好きで、だけどその二つを合わせた好きよりも、僕は君のことが好きだったんだ。
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