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『店長ー。今日のオススメデザートはー?』
『はあい、店長ですよー! 今日はラズベリームースのライチシャーベット添えでーす!』
相変わらず忙(せわ)しく動き回る君を、僕は目で追ってしまう日が増えた。気をつけよう気をつけようと言い聞かせているのに、ぼーっと君を見つめてしまうことがしばしば。これでは店に迷惑が掛かると、動き回る君を猫か何かと思い込むことにしようと決意したけれど、そんなものはかえって逆効果だった。仕事に身が入らず、君にも何度か怒られたね。
『もう、最近どうしたの? そんなんじゃ駄目だよ?』
『すみません……』
落ち込む僕を困ったように見つめ、うーんと悩みこむ君が鮮明に思い出される。ただでさえ疲れている君を更に悩ませて、僕はいったい何をしているんだとひどく後悔した。そうしたらちょっと慌ててしまい、勢いで言ってしまったんだ。
君のことが好きだ、と。
そのときの僕はたぶん少しおかしかった。この想いが通じるなんてことはこれっぽっちも思っていなかったから、今ここで伝えて、きっぱり振られてしまえば仕事に専念できるようになると思ったんだ。
なんて浅はかだったんだろう。だけどそのことにはすぐに気付いた。呆気に取られている君を見て、頭のてっぺんから氷でもぶち込まれたように一気に冷静になって、もっともっと慌てたんだ。
何をしているんだ僕は。更に君を困らせているじゃないか。だいいちこれで僕が振られたら、彼女のほうが気を使ってしまうようになるかもしれない。なんてことを言ってしまったんだろう。これだから僕は。
もの凄いスピードで色んな単語が走り抜けていく。君の数秒の沈黙が何時間にも感じられて、なんちゃって、嘘だよなんて言ってしまおうかという最低な考えが浮かんだとき、君が安心したように笑ったんだ。
『なんだあ、早く言ってくれれば良かったのに。私も好きですよー』
少し頬を赤らめて、落ち着き無く両の手の指を絡めながら、君はそう言ったんだ。夢かと思った。頭が爆発するかと思った。いや、もしかしたらしてたのかもしれない。だって僕は、あの日それから君とどういう会話を交わしたのか覚えていないんだから。
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