第一章

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(え……? 何?) 濃藍の直衣の男の足はほとんど動かずに、向かってくるならず者のわき腹や首に棒を打ち込んで退けます。 最初は倒れても立ち上がって来た男たちも、それを数度繰り返した後。 「畜生!今度会ったらただじゃおかねえぞっ」 そんなお決まりの捨て台詞を残して、逃げ出していきました。 「もうお会いしたくはないですけどね」 濃藍の直衣の男はぽつりと呟くと、持っていた棒をぽんと放って紫苑姫の方を振り向きます。 「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」 腰をかがめて手を差し出す男の貌は、背に光を受けているせいで影が掛かり、はっきりと見えません。 けれどその優しい声音に導かれるように、紫苑姫は目の前の手にそっと自分の手を重ねたのです。 一気に体を引き上げられ、立ち上がった紫苑姫は男の貌を覗き込もうと致しました。 その時。 「ああ、草履が脱げていますね」 男はそう言って紫苑姫から身を離し、地べたに転がった草履を拾いに行ってしまいました。
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