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(え……? 何?)
濃藍の直衣の男の足はほとんど動かずに、向かってくるならず者のわき腹や首に棒を打ち込んで退けます。
最初は倒れても立ち上がって来た男たちも、それを数度繰り返した後。
「畜生!今度会ったらただじゃおかねえぞっ」
そんなお決まりの捨て台詞を残して、逃げ出していきました。
「もうお会いしたくはないですけどね」
濃藍の直衣の男はぽつりと呟くと、持っていた棒をぽんと放って紫苑姫の方を振り向きます。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
腰をかがめて手を差し出す男の貌は、背に光を受けているせいで影が掛かり、はっきりと見えません。
けれどその優しい声音に導かれるように、紫苑姫は目の前の手にそっと自分の手を重ねたのです。
一気に体を引き上げられ、立ち上がった紫苑姫は男の貌を覗き込もうと致しました。
その時。
「ああ、草履が脱げていますね」
男はそう言って紫苑姫から身を離し、地べたに転がった草履を拾いに行ってしまいました。
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