第一章

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「そんなにじっと見つめると、私の姿が貴方の眼に移ってしまいますよ?」 男が頬を緩めて笑うので、紫苑姫ははっとして一歩身を引きます。 (なんだろう、この感じ。胸の中がざわざわとうるさくて、心の声が全然聞こえない) 初めての感情に紫苑姫は驚き戸惑い……けれど一つだけ。この男の事をもっと知りたいと口を開きました。 「あの、お名前は――」 「紫苑様っ!!」 けれどその声は、駆けつけた将時の声にかき消されてしまうのです。 「……将時」 「紫苑様、御無事でしたか? 急に姿が見えなくなったので……」 将時は血の気の失せた顔に汗を滲ませて、鋭い視線で紫苑姫を見下ろします。 そして隣にいた男に気が付き、その目をそのまま男に向けました。 「失礼ですが、貴方様は?」 身に着けた直衣から、身分はおそらく自分より上であろうと判じた将時の言葉は、丁寧ですが棘がございます。 それを受けて男は困ったように笑みをこぼしました。
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