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「そんなにじっと見つめると、私の姿が貴方の眼に移ってしまいますよ?」
男が頬を緩めて笑うので、紫苑姫ははっとして一歩身を引きます。
(なんだろう、この感じ。胸の中がざわざわとうるさくて、心の声が全然聞こえない)
初めての感情に紫苑姫は驚き戸惑い……けれど一つだけ。この男の事をもっと知りたいと口を開きました。
「あの、お名前は――」
「紫苑様っ!!」
けれどその声は、駆けつけた将時の声にかき消されてしまうのです。
「……将時」
「紫苑様、御無事でしたか? 急に姿が見えなくなったので……」
将時は血の気の失せた顔に汗を滲ませて、鋭い視線で紫苑姫を見下ろします。
そして隣にいた男に気が付き、その目をそのまま男に向けました。
「失礼ですが、貴方様は?」
身に着けた直衣から、身分はおそらく自分より上であろうと判じた将時の言葉は、丁寧ですが棘がございます。
それを受けて男は困ったように笑みをこぼしました。
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