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「ユリじゃないの?」
「えっ?」
「どうしたの? こんなところで……ひとり?」
「ええ。茜に誘われて、初めて【街コン】に参加したんだけど。彼女は声かけられてどこかへ……智美もそうなの?」
「あははっ、あたしは、この店のバイトよ。この格好見れば分かるでしょ?」
「そうなの? あんまり素敵だから、てっきりウサギさんの着ぐるみでアピールしたのかなって」
「あははっ、ここはガールズバーだから、これが制服なのよ。看板見たでしょ? バニーのお館」
「バニーの親方って……ああ、ウサギさんの親分ね」
「べつに、親分じゃないけど。……で、どうなの? めぼしい相手は居なかったの?」
「うーん。さっき、変わった男から声かけられたけど……」
「気に入らなかった? 変わってるって、どんな?」
「うん。ロックバンドのメンバーなんだって。ミュージシャン」
「ロックバンド? 熱いじゃないの。楽器は何?」
「それが……掛け声係なんだって。ヘイッとかホーッとか専門の」
「えーっ? 楽器を弾けないミュージシャンて中途半端ね」
「そう。それっ! 両耳に、おっきい【ひょうたん】をブラブラさせて、鼻にもピカピカした鼻輪をつけてるの。なんだか中途半端に化粧した牛みたいな人」
「うわっ! 強烈ね。他には? それだけ?」
「もうひとりは……。スーツ姿で一見、普通なんだけど、ずうーっと、へらへら笑ってばっかりで。ほら、なにやっても眼が笑ってる俳優が居るでしょ? この前、女優と結婚した人」
「映画【大奥】の?」
「そう。その人。彼はイケメンだからサマになるけど。それを真似してるみたいなの。でも、真似し過ぎて、眼だけじゃなくて顔全体をぐらぐらさせながら話すから落ち着かないのよ」
「うーん。それではねえ。ユリの好みのタイプは?」
つづく
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