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「もし、そこの女神様。」
年老いたみすぼらしいバラモン(インドの聖職者)が、夜をさ迷う彼女に声をかけた。
「さぞ、お困りのご様子。」
バラモンは大きく膨らんだ彼女のお腹を、いやらしい目つきでチラリと見てから話を続けた。
「ワシはシヴァ神からお告げを受けた。『今夜出会う女の娘を引き取って育てるように』とな。」
言葉とは裏腹に油断のできない含み笑いを続けるバラモンを見ながら、彼女はこの甘い誘いに乗るかどうか迷っていた。
「あなたのお腹にいる娘は、世界の覇者を支える白き牝鹿とも聞いておる。そんな偉大なお方を育てる機会を与えられ、ワシは感激に震えておりまする。」
実際に震えながら彼女の下腹に手を差し伸べるバラモンを見て、彼女はようやく不要な命の行方を決めた。
ここまで求める者なら生まれた命を悪いようにしないだろうし、自分の妊娠を悪く言いふらす事もない便利な男だと判断したからだ。
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