■「怪物王女。」

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 そんな時だ。  三本目の煙草を吸い終え、靴底で踏み潰して吸い殻を拾おうと身を屈めた俺の前を、やたらお嬢様然とした少女が通り過ぎた。一目見て分かった。こりゃほんまもんのお嬢様や、と。厳密に何が、と言われると説明出来ないのだが、第六感がそう告げている。  この手の業界に長く勤めていると、その客が『細い』か『太い』かを一瞬で見極められるらしい。細い太いはスタイルの話じゃない。要は金持ちかそうでないかだ。この子は間違いなく『太い』。そういう雰囲気を持っていた。 「お嬢さん。」  声を掛けてみる。すると、意外にもすんなり振り返られた。  ―――Oh....Beautiful....。  そこには、宵闇のヴェールを纏ったような、ハーフっぽい美少女が立っていた。  資産家の娘か、音楽家の娘か、何だか教養の有りそうな子だ。実に理知的で蠱惑的な美貌。そして何という黒髪美人。和服も似合いそうな、まさに東洋の魔女。  これはエスコートせざるを得ん!  決起してからは早かった。  素早く立ち上がり、彼女に駆け寄る。  いやちょっと待て。  見上げた時はなんつー美少女かと思ったが、なんだか小さい。予想以上に小さい。俺が見下ろしている。20センチ、いやもう少し低いか。まさか子供か。勿論、成人してない女の子はお店にご案内出来ない。そんな事したら犯罪だ。  うわぁー、どうしよう。声掛けた手前、「スミマセン、ナンデモナカトデス。」なんて流石に失礼すぎんだろ……とりあえず何か話さないと気まずいな。  意を決して口を開いた。 「ごめーん、ナンパしちゃった☆」  先程まで馬鹿にしてた輩と、大差ない台詞が口から飛び出た。おいいいいいぃぃ。 「……ほぅ?」  それに対する彼女の返事は、絶対零度の冷たい一瞥と共に返って来た。うん、当たり。その対応大正解。俺が君でもそんな感じで一蹴してると思う。ほんとどうかしてた。だから睨まないでください。 「うん、失礼だったね。ごめんな。この辺にはお嬢さんみたいな綺麗な子を食い物にする悪い化け物が出るから、早くお家に帰った方がいいぞ。寒いし。」 「……その化け物って、あなたのこと?」  怪訝そうな顔で問い掛けられる。  あーそうだよその通りだよ。化け物でごめんな。言い出しっぺ俺だけど。完全にブーメランだ。ぐぬぬ……。  
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