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「加藤君!」
私の声は彼の叫びにかき消された。
崖下を確認する勇気はない。
ここはかなりの高さがある。
確実に死んでいるだろう。
「なんでこんなこと……」
私が思わず呟いた言葉に、ゆかりが笑って返す。
「大丈夫よ。おまわりさんに捕まることはないわ。玲愛ちゃんも、私も」
その笑顔はゾッとするほど明るい。
ゆかりちゃんは一体どうしてしまったのだろう……。
「知ってる? 野生の世界では、牙を剥いているワニよりも、カバの方が危険なのよ。ワニは自分が生きるために獲物を襲うけど、カバは自分の縄張りに入ったものを容赦なく攻撃するの。明確な〝殺意〟を持ってね」
ゆかりちゃんは優しく諭すように語る。
「私も同じ。普段は牙を隠し続けて、私の生活を脅かす人間や、私と過ごす資格のない人間を排除するの。それって悪いことかな?」
私は何も答えられない。
「やだあ。そこは突っ込むところだよ。ゆかりちゃんはカバみたいに不細工じゃないよってさ」
ゆかりちゃんは、本当に愉快そうに笑う。
私はこの日、青山ゆかりの正体を知った。
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