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その異変に気がついたのは、それこそ偶然のいたずらであり、恐らくは、私の目に止まる前から、それはずっとそこでそうしていたのだと思う。『ずっと昔から』というほどでもなく、『昨日今日に始まったことではない』という程度では間違いない。それくらいにあいまいで、不確かなのに、それは確実に前からそこにあったのである。
通勤ラッシュ
玄関を出たときからそれは始まっている。
10階建てのマンションの4階に住む私は、まず、エレベーターにどれだけスムーズに乗れるのかからそれは始まる。
ちょうど降りてきたエレベーターに乗れればいいが、10階から各階に止まり、満員になることもある。
1階から上がってくる場合は、だいたい上の階までいってから戻ってくる格好になるから、その場合はいっそうのこと階段で降りたほうが早く着く。
新聞を取っていない私は、駅の途中にあるコンビニで朝刊を買う。
そこでもレジに並ばずに買えることは少ない。
電車に乗るにはだいたい一本見送り、列の先頭4人の中に入るようにする。
私は幸い会社まで電車一本でいける。
もし、乗換えがいくつかあるのなら、それはそれでまた、ひと手間もふた手間もかけなければならない。
会社の最寄りの駅に着いたら、今度はビルのエレベーターに並ぶ。事務所に入るとタイムカードを押すのに並ぶ。これでようやく一息つける。
月曜日から金曜日までこの作業を繰り返す。
誤差は15分以内といったところだ。
月曜日と木曜日は朝のゴミ出しがあり、水曜日は私が担当する部会の早朝ミーティングがある。
3年前はミーティングが月曜日でゴミは火曜日と金曜日だった。もう、何年も同じことを繰り返している。
いや、何年も経っていなのかもしれないが、この先もかわることはないように私には思えていたし、それを望んでいたと言ってよかった。
通勤電車の中の風景は、あれだけの人がいながら、殺風景という言葉がもっとも似あう。それぞれが自分の存在をできる限り無機質化し、最小化し、感覚器官の感度を最低限に調整する。
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