第6話 この指とまれ!

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(2)ネクタイのシミ  五月。新しい制服、新しい勤め先、新しい生活。三月から四月にかけて人の移動が行われゴールデンウイークを過ぎた頃にやっと落ち着く。それが五月。  うまくやれたもの、やれないもの、やられたもの……、人それぞれだが私には関係がない。  ただ、少しばかりうらやましいと思うこともあり、疎ましいと思うこともある。  良いにせよ、悪いにせよ、変化があるということは刺激があるということだ。  しかし、ただ変化があれば良いというものではない。  この世の中には予定された変化というものがほとんどで、本当に刺激のある変化というものは、40年も生きていればそう多くはない。人の死ですら、予定されているのではないかと、最近は思うようになっている私には、その程度のことで一喜一憂する人をうらやましいと思い、そしてどちらかといえば疎ましいと思うのだ。  幸いにも私の父も母も健在である。この幸いというのは今、生きていることがという意味においてよりも、人の死について、ある一定の経験とそれに伴う覚悟ができたこの時期まで両親が健在でいてくれたことへの思いであり、昨年、母にガンが見つかったときも、驚くほどに冷静でいられた。  家族の誰一人取り乱すことなく、また、幸運なことに早期の発見であり、手術後の経過も良好である。これはそのままの意味で幸運なことであり、しかしそれ以上のものではない。  あるいは自分は人と比べて情に薄く、またはそのように振舞うことに、ひとつの矜持を感じているのかもしれない。そうであろうと、なかろうと、今は五月である。  いつもの車両にいつもの時間に乗り込めば、そこにはやはりいつもの顔がある。いつもではないのかもしれないが、私にとっては大差のないことである。  そのとき私はうっかりしていた。コンビニでいつものように新聞を買い、そして缶コーヒーをついでに買った。どうということはない。ちょっとしたおまけに惹かれて私はそれを買った。ちょっとしたおまけというのは携帯のストラップであり、つい数日前、カバンの金具に引っ掛けて、今まで使っていたストラップのアクセサリーが壊れてしまったのだ。
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