第6話 この指とまれ!

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(3) 穴  そんなことだから、電車に乗ってもどことなく気分が落ち着かない。いつものようにその空間に溶け込むことができずに、やたらと人の視線を気にし、そして周囲の状況に敏感になってしまう。地下鉄の窓に映る自分の姿がやたらと気になる。  目の前のシートに座っているOL風の女性は、ずっと下を向いてスマフォになにやら入力している。右どなりのくたびれたサラリーマンは腕を組んですっかり寝入っている。その隣の小柄なサラリーマンは新聞をきれいにたたみ、なにやら小難しそうな顔をしながら新聞を読んでいる。OLの左隣には小太りのメガネをかけた男が携帯ゲーム機で遊んでいる。  他人を気にする余裕など誰もないのだ。それを確認して少し安堵した。が、そう思ったのもつかの間、正面に視線を移したとき、私は私が列車の窓に映りこんでいる姿とその隣……私の左隣に映りこんだ女性の姿にはっとした。  彼女はおそらくOLか、或いは女子大生かもしれない。目がパッチリして、鼻筋もすっと伸びている。黒い髪の毛は肩のあたりまで伸びている。重たい感じはしない。毛先がきれいに整い、さらさらとしている。  色白でやや小柄ながら、体の線はしっかりとしている。  白いパンプスは行動的で、膝丈ほどの花柄のスカートはふわっとしていてかわいらしい。  白いブラウスは清潔感があり、袖から伸びた白い腕は、美しいきめの細かい肌をしている。  左手で吊り革を掴み、その指先は細長く、指輪もなければ派手なマニキュアも見当たらない。白いショルダーバッグを右の肩から下げている。  ここまでは、そうごく普通の女性、いや、「きれいな」と付け加えることに誰もためらわないだろう。問題は彼女の右手である。いや、もっと局所的に言えば人差し指である。  彼女の右の人差し指は彼女の右の鼻の穴に突っ込まれている。
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