第1話 彼女が傘をささないわけ

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 傘をささず、上を向き加減で歩いている。  決して上は見ていないが、皆が下向き加減だから、まっすぐ歩く彼女は上向き加減に見えてしまう。 「彼女はなんで、傘を持っていないのだろう?」  そう思う間に、私と彼女は背中で交差し、彼女はまっすぐ歩き、私もまっすぐ歩いた。  20代。おそらく25から30の間。帽子をかぶっている。カーキ色のふわっとした感じの帽子だ。  私はそれをなんと呼ぶのか知らない。  上着はコートと呼んでいいのか、ジャケットと呼んでいいのか、私にはわからない。  全体的な印象は落ち着いた色遣いで、かわいらしくもあり、行動的な感じでもある。  雨が降っている。  決して無視できるような雨ではない。  遠くの空を見れば、雨が降っていることを気づかないような、そんな空である。  しかし、ビニール傘に目をやれば、雨粒はしっかりと音を立て、しずくとなってぽたぽたと落ちてくる。 「彼女は、なぜ、傘をさしていないのだろう」  彼女はおそらく駅に向かっているのだろう。私は当初の予定通り、まっすぐ駐車場を抜けて、左斜めに横断歩道の手前で道路を渡りきった。傘を持たない彼女は私にやや遅れて、その横断歩道に差し掛かっていた。ここを渡り、左にまっすぐ行けば駅である。 「家から出てきたのなら、傘を持って出るだろう。友達の家から朝帰りでも、やはり、そうだろう。傘くらい貸してくれるだろう」  私はぶつぶつと分析を始めた。 つづく
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