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「それに、傘がないのなら、横断歩道の手前のコンビニで買えばいい。それもしないのか……」
下衆な勘繰りを始める。
「男か……。男の部屋から朝帰り。しかし、ビニール傘の一本や二本あるだろうに」
高架線を超え、オフィス街に入る。
「徹夜明けの仕事帰り、恋人の部屋からの帰り、女子会の帰り、どれもしっくりこないなぁ」
いつもの自動販売機で缶コーヒーを買う。100円だ。しかし、小銭を持っていないときは立ち寄らない。
「彼女は、なぜ、傘を持って出なかったのか」
郵便局の前には自転車が何台も止めてある。今日は10日か。
「彼女は……きっと、雨が好きなのか」
私にはわからない。彼女の服装は『雨に濡れてもいい』ようにはみえなかった。
「いや、彼女はきっと、傘がきらいなのか」
公園を突っ切る。晴れた日なら広場を斜めに通り抜けるが、雨の日には靴が汚れる。舗装された道を使うと、ショートカットにはならないが、それでも車や自転車を気にしなくていい。
「いや、彼女はもしかしたら、とても気に入っている傘があるのかもしれないな」
片側3車線のメインストリートを渡り、事務所の前に着く。雨は激しくもならず、弱くもならず、風もない。
「このくらいなら、駅まで歩いても対して濡れないか。大きめの帽子だったから、髪の毛が濡れることもないだろう」
エレベーターの前でビニール傘をたたみ、雨水を振り払う。
「でも、やっぱり結構な雨だよなぁ」
エレベーターの扉が開く。タバコのにおいがする。傘の先から雨水が滴り、小さな水たまりができる。
「彼女は、なぜ、傘を持たず、傘をささず、雨に濡れ、そしてどこへ行ったのだろうか」
その日、雨は昼過ぎには上がった。
おわり
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