閉村

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「ぐ…………」 平井は口をつぐむしか無かった。 ―――三郷村。 一時、秘境温泉郷として客を集めた観光資源依存の小さな村。 平家ゆかりの地として知られ、 三郷神社を筆頭に、古風な文化と温泉、何より都心から近いということを売りにして、1960年代半ばに栄えた村だったが、 ここ30年の間に、客足は急激に遠退いた。 新幹線開通による全国の温泉地への移動手段の簡素化、 マイカーの所有率の上昇、 周辺地域のリゾート建設、 そして何より村自体の問題として、過疎化による経営者の高齢化……… ………種々多様な要因が重なり、 かつての栄華はどこへ消えたのか、現在となっては全くといっていいほど需要の無い、 寂れ果てた観光村になっていた。 周辺の村が農業村に方向を転換するなか、最後まで観光業にこだわり続けたのが仇になったとも考えられる。 ついに今年に入って人口は200人を割り、18歳以下の子供の数は僅か7人、60歳以上の高齢者が全体の数の40%を占めるなど、 まさに過疎化の一途を辿る村であった………
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