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おそらく長々と語っていては間に合わない。そう悟った甚平はたった一言に想いを乗せた。
「また来年会おう」
それだけだった。
直後にじいさんの姿は、炎色の煌きに混ざって溶けた。娘夫婦が笹舟を川に浮かべたのだ。
祖霊の加護が息災に効果を及ぼすと聞いたことはなかったが、甚平は祈った。この時ばかりは呪いだと莫迦にする事もなく、心から祈った。
「また、来年会おう」
強く願い、そしてじいさんの乗る灯篭に向かい呟く。
下流に流れていくのを見送ってからは早々に退散し暖をとった。
最低でもあと一年、生きながらえなければならない理由が出来てしまったのだ。とっくにガタが来ている体だが、それでもじいさんともう一度話をするまで壊れられてしまっては困る。
祖霊祭が来年も行われるかどうかはわからない。
だが、じいさんの願いが奇跡を起こしたのだ。甚平の願いが奇跡を起こした所で不思議はあるまい。
既に三日前とは見違える程生気を取り戻した姿があるのだ。強い願いというのはきっと、雪の煌きにも負けない輝かしい思い出を紡ぐ力となる。
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