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「そんなに驚く事でもないだろう。今日が何の日か知らんわけではあるまい?」
甚平は確かに知っていた。生前のじいさんから何度も聞かされていたから。
村で亡くなった人は山の神となる。それは祖霊と呼ばれ、田畑の豊作を司り、酷寒の天災から村を守ると。
しかし、所詮は人の信仰による呪いだ。都会で暮らしていた頃もその手の話は名目だけだったし、現にじいさんの娘夫婦は未だに信じちゃいない。村で暮らす以上必要だから祖霊祭にも参加している、それだけだ。
「何度も祖霊祭は経験してきたけど、祖霊を見たことは無い」
「そうか。だが儂は死後こうして甚平と会い、生前叶わなかった会話が出来ている。たったの三日間かもしれないがな」
言いながら、じいさんは甚平の隣に腰を下ろした。昔と同じように膝の上に甚平を抱え、黒い上質な毛を撫でる。
信じ難い事ではあったが、現実にじいさんは目の前にいる。そして撫でられる感触は昔のままだった。
「信じられないが……人の業とやらに感謝しよう」
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