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饗日
「婿殿も今年ばかりは役目を果たすか」
祖霊祭二日目。村人の中ではまだまだ若造と揶揄されるだろうが、外の世界では壮齢と判断されるであろう男が、人々に激を飛ばしている。縁日を仕切る娘婿の働きを眺めながらじいさんが呟いた。
肝煎の家系だったじいさんは生前村の祭儀等を取り仕切っていた。後を継ぐのは娘ではなく婿になると決まっていたため気にかけていたのを甚平は覚えていた。
「あれは良くやっているよ。じいさんの様に、とまではいかないがね」
「今はな。いくら儂とてそこまで耄碌した覚えはないぞ」
じいさんは知っていたのだ。愛娘が財産を得る為に帰省した事を。絵を描いたのは恐らく婿だろうが、外の血を受け入れればいつかはそうなると誰もが判っていた。
じいさんの言う通り、村人だって馬鹿ではない。国や企業がここらの土地に手をつけたがっているのは何度も役人が訪れているから周知だ。時代と歴史に逆らい続けてきてはいるが、いずれ限界は来る。だが、せめてそれまでは土地の誇りを守り通したいのだ。
昨日までは雪に塗れるのは御免だと思っていた甚平だが、今日はじいさんと共に表でそんな風に村を眺めていた。
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