送日

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送日

 村の近くに川が流れている。村人が崇める山から流れ、麓の街を越え海まで繋がっている。村の管理する範囲の周囲は砂利で、頼りないが堤防もある。幅は凡そ三間、童の膝程までの深さだが底までよく澄んでいる。  これが祖霊祭の最終日、送り火を行う場所だ。  笹造りの舟に、紙灯篭を乗せる。村の上流から始まり、下流までを辿る。  初日に迎え入れた祖霊はそれぞれの子孫と共に再開を喜ぶ。二日目の縁日でもて成し、三日目はそれぞれを静かに過ごす。その三日目の夜、村の存在をしかと刻んだ祖霊は灯篭に乗って村を一通り見て回った後、田畑と山へ宿り豊作を促すとされている。 「綺麗だ」  甚平が自然と溢した言葉だった。  今じいさんと甚平は、灯篭を持ち川へ向かう村人の行列を眺めている。  この日の天候は快晴。村人の信仰の賜物か、祖霊の御力の顕現か。どちらにしろ、絶好の日和となった。  無数の光源が積もった雪を照らしきらきらと輝いている。光源が多いためあちこちに陰影が生まれ、炎色が絶妙な塩梅で輝いていた。 「だから今まで何度も連れ出そうとしただろう」  甚平は寒さが大の苦手だった。いくらじいさんに誘われたといっても冬時期は絶対に外に出なかった。  それでもこの日甚平がこの場所に居るのは、じいさんと少しでも時間を共にしたかったからに他ならない。  昨日も外気は経験したが、昼間と夜とでは比べ物にならない。人より多くの毛皮を着込んではいるが肌を刺す冷気は自然と体を震えさせる。美しい景観とじいさんの存在で気を紛らわせていようとも、やはり寒いものは寒い。 「今こうして感動を覚えるのは初見だからだ。おかげでじいさんと最後に眺める景色を死ぬまで忘れそうにない」 「来年、また会えばよかろう」  心にも無い台詞だった。甚平の先が短い事は、もちろんじいさんもわかっている。加えて、翌年の祖霊祭があるかどうかも定かではない。これが本当に最後になる。しかし願わずにはいられない。たとえ戯言に成ろうとも。  甚平は何も返さず、暫し黙ったまま行列を見やった。 「さて、甚平」  沈黙を破ったのはじいさん。  輪をかけて穏やかに笑む目元を、甚平はじっと見つめた。
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