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「そんな些細な事は問題にもならん」
かなり重要だったはずだが……と疑問符を浮かべた。
「人と人なんて物は――お前は人じゃなかったな。まあいい。お互いの気持ちなんて物は、食い違っていたり、すれ違っていたり、それが当たり前の事だ。気に留める必要なんぞありゃせん。別にどうだっていいではないか。大切なのは、今儂らが互いを案じる絆を持っている事だ。結果としてお前は儂に懐き、儂はお前に救われた。互いが互いを支えた。これ以上に大切な事があるか?」
無い。甚平はそう思った。
たしかにそれと比べれば、当初どう思っていたかなど些細な事だ。
「別れ際に辛気臭い顔なんぞ見せるでない。甚平はいつもそうしていたように、飄々としておれば良い。仕方ないから撫でさせてやる、退屈だから話を聞いてやる、それくらいが丁度良い」
流石に最後の言い分には異を唱えたくなるが、じいさんが背を向けた事で言いとどまった。
その先に視線をやれば、娘夫婦が灯篭を浮かべようとしてる。
「甚平、本当にありがとう。楽しかったぞ」
じいさんの姿が徐々に霞んでいく。
祖霊は灯篭に乗り土地へ宿る。その理の通り、じいさんは灯篭に乗るのだ。
だが、まだ甚平は話し足りない。想いを伝えきれていない。
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