プロローグ

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 一条家之墓。目の前の墓石にはそう書かれていた。  数年ぶりに家族四人揃って訪れる場所が、まさか墓地になるとは俺も予想していなかった。  初めて見る一族の墓碑にはいくつもの戒名が連ねられていて、最後の日付は十八年前。俺と菜月が生まれた年だ。 「本当は、お前たちが二十歳になるまで連れて来ないつもりだった」  合掌したまま目を開けた父さんは静かにそう言った。  俺と菜月は生まれてこの方墓参りに来たことがない。盆になると俺達を除いた一族総出で来るのだ、それに不審を抱かないわけではなかったが、信心があるわけでもなく気にとめていなかった。 「父さん、今日あたし達を呼んだのはお墓参りのため? 話があるんじゃなかったの?」  大事な話があるから今日一日空けとくように。父さんと母さんはそう言ってここに連れてきた。  腕を組んで歩いている所を見つかった後だ、その大事な話が何なのかは予想出来ていた。けど、何かおかしい。  もしも、兄妹で愛し合う事を咎めるというなら父さんがこんなに落ち着いている筈はないし、母さんに至っては朝からほとんど口を開いていない。  まるで喪に伏しているようだ。まさかここの空気に当てられたわけではないよな。
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