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錆び付いたツンと鼻につく臭い。
開け放たれた檻。
中身のない衣服。
赤で汚れた床。
此処で何かあったかは問うまでもなかった。
「レイヴン……!」
そうして声を上げるのは一人の男だった。
少年と言うには大人びた顔立ち。獅子のように逆立てた金色の髪。一重だけど腫れぼったさはなく、すっと伸びた鼻梁は筋が通っている。何れのパーツも秀でているその男は、灰の上に被さる布を手に取って悲しみに暮れる。
誰がこんな惨いことを、とは口に出すまでもなかった。男の目は完全に据わっている。
「あんのクソガキがァ……!」
声にして怒りを訴えてしまえばもう止まらない。「レイヴンの優しさにつけこみやがってもう許さねぇ!」と地の底を這う声音は空気を揺れ動かしかねなかった。
そんな男――ドクを冷めた目で見つめるもう一人の男がいた。本来なら彼ら二人を合わせこの衣服に包まれた者プラスあの籠の中に一人の計4人がいるべきだった。
まさか“こんな方法”で逃げ出すとは思っていなかった。
「――やられたね」
よく通るそれで紡ぐ彼の名はシャーク。ドクとは対称的に穏やかな目元に笑みを作るための薄い唇。プラチナに染まる肩につく長めの髪を後ろで一つにくくっている。
彼を初めて見る者であればあまりの造形美に溜め息をつくことだろう。寧ろ綺麗すぎて毒を含んでいそうだ。
「あの子にこんな度胸が備わっていたとはね」そうやれやれと肩を竦める素振りにすかさずドクは噛み付いた。
「いくらシャーク様のお気に入りだからってこれは我慢なりません! 今まで甘やかしすぎたんですよ!」
「そうだね。本当……それは俺も思うよ」
「Lv.4以上の殺害は禁忌(タブー)とされてること。……シャーク様、このドクに命を。レイヴンの敵討ち、させてください」
「まぁ待ちなって。あんな見た目でもLv.4……いやそれ以上の使い手。君じゃ勝ち目ないよ」
「でも……!」
それじゃ俺の気が沈まない、その言葉をドクが飲み込んだのはシャークの端麗な顔が歪に笑んだから。
ゾクリ。ドクは唇を真一文字に結んだ。
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