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女性は自分達を視界に捉えるなり心底嫌そうな顔をした。開けるんじゃなかったと言う念が次の行動で余計にそう伝わってきた。
バタン――ガッ、扉を閉める前にドクがその隙間に足を滑り込ませて強引に抉じ開けた。
「ちょっと! レディーの家にアポなしできた挙げ句失礼なんじゃない?」
「ハッ、どこにレディーと呼べる女がいるんだよ」
「……、こいつ」
「ドク、やめな」
主人の言うことには素直に従うようで、ドクは彼女に向けて舌を打ち押し黙る。
そうしたいのは此方だよ、と女にしてはやたら狂暴な視線をドクにぶつけた後、そのままの眼光をシャークにあてた。
「いやだな、そんな顔。せっかくの美人が台無しだよ?」
「アンタのペラくさい笑顔よりマシだっつの」
「テメェ口の聞き方に気を付けろ」
「あーら教えてくれる~? アンタらきな臭集団に逆らうとどうなるか、さ」
クスリと嘲笑を混ぜて洩らせば自他共に認めざるをえない沸点の低さがここでも発揮された。シャークが止めるよりも早くドクは彼女の首元に手を伸ばした――ところを見えない壁が弾いた。
これは彼女の『能力』によるものだった。――けれど、“今”発動したものではない。
ドクは部下としては優秀だが直ぐ頭に上るところがたまに傷だ。あの時その場凌ぎで交わした契約がこんな形でしっぺ返しされるとは、何処までも面倒な。
そうでなければシャークとてこうも低姿勢ではない。とっくのとうに鮫の刃を剥き出しにしている。痛い痛いって泣き叫ぼうが自身に牙を向けたことを後悔させてやる。それをしないのは、あの子に出会わせてくれたと言う情があるわけではなく、女の『能力』が起因している。
便利な『能力』というのは敵対してしまえばこの上なく邪魔でしかない。Lv.4以上は勿論のこと、珍しい『能力』所持者は重宝される。だけどこの世界の覇者である自分だけは、レベルがいくつあろうが「好き」にする権利がある。
あの子を生んでくれたことは感謝するが、それ以外では面倒極まりない存在。消してしまえば良かった。
「――俺のあの子が逃げ出したんだ」
大事に、大事に、宝物のようにしてきたつもりだった。傷一つ付けないで、無理矢理繋いでいる分あの子に気を遣って地下には自分と後信用している部下二人しか出入りは許さなかった。
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