―逃げ出した鬼―

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 距離をとったところで足を止め、小さく見える一軒の丸い家を眺めてはシャークはそれはもう愉しく微笑んだ。  純粋とはかけ離れた企みを醸し出すそれにドクは恐る恐る声を掛けた。 「シャーク様……?」 「――ドク」  彼の『能力』がなくても自身の脳に直接響き渡る声。支配される心臓。己の全ては彼のためにあると言っても過言ではない。  日光に照らされてより輝くプラチナの髪。  彼は伏せた目を僅かに開いて薄目でドクを見やる。 「君にあの子を探す権利を与えるよ」 「えっ本当ですか!?」 「――ただし、あくまでも“探す”ことが目的であって、それ以外はなにもするな」  何故そこを強調するのかと言うと、ドクはその筋においてはスペシャリストだった。  『探索(サーチ)』――相手の体の一部さえあればある程度の場所を絞ることが可能。しかし、若干の欠点があってピンポイントで特定をすることは出来ない。せいぜいあの辺りにいるなぐらいにしか。  それでもこの『能力』はドクだけのもので、その点を抜かせばいかに優れているかがシャークの右腕的立場から示している。 「あ、でも俺あのガキの一部持ってませ――」  全てを言い切る前にシャークはズボンのポケットから小瓶を取り出した。半分ぐらいまで入った赤色の液体。  ハッ、と察したドクは顔を上げる。  『探索(サーチ)』を思う存分発揮するにはまず対象者の体の一部が必要。だけどあの現場を濡らしたのはレイヴンの血液で、毛髪でもいい、と隅々まで探したところドクの『能力』を見越していたとしか 思えない徹底ぶり。  どうやらあのナリで知能指数は悪くないらしい。  
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