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牛乳パックのような容器をマリアが少女に何個か手渡す。なるほど、と思った。やはりあの女は自分にとって厄でしかない。
――マリアはいつこんなことが起こっても言いように、予備の血液をいくつもストックしておいたんだ。
侮れない女だ。
断ち切ったはずの絆がこんな形で繋がっていたとは、なんて皮肉なことだろう。
自分がしたことのおかげで前よりも彼女達は一筋縄ではいかなくなった。
これは制約違反ではない。何故なら“逃げ出した後”のことについては知らないから。でも此方は手を出すことは出来ない。
何故あんな言い方をしてしまったのか、我ながらなんて間抜けなことだろう。あの時は頭が冷静に回らなかった。焦っていたんだ。
自分としたことが、まんまと彼女の術中にハマッてしまった。一番言葉選びには注意点をおかなければいけない相手であっただろうに。
今度とばかりは此方も本気だ。
幼女言えども自分と同等の力を宿す強者。
年齢が年齢なだけにまだレベルを与えられてはいないけど、Lv.4のレイヴンがあの様だ。
もう二度と脱走なんてしたいと思わないように空っぽにしなきゃ。
生きてんだか死んでんだか分からなくなるぐらいに精神を壊さなきゃ。
そうしてやっと自分の言葉を耳に入れてくれるのなら、可哀想だけどやるしかない。
「あーあ、せっかく『能力』を使わずに優しく壊してあげたかったのに……」
吹っ切ったようにそう口にするシャークは口許こそは緩くカーブを描いているけど目は獲物を射るように鋭かった。
心のどこかで分かっていたのかもしれない。いつかはこうなる日がくることを。だから、思ったよりも落ち着いていられた。
ドクは知っている。シャークがその気になればどんな者でもたちまち精神崩壊は免れないことを。
「俺ね、出し抜かれるの嫌いなんだ。だからさ、後悔じゃ済まないぐらいの思い、させてあげる。
なぁ、――ハピネス」
ふふふふ、その形のいい唇はとてもじゃないがこんな風に不気味に笑いを綴るようには見えない。
切れ目を見開かせるドクはつられたように口端を上げた。
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