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無遅刻無欠席も本日付で終わりとなった今日この頃、真央は風呂場でおさなめを椅子に座らせその背後に立つ。
一緒に仲良くお風呂ルンルンではない――これぐらいの年齢であればまぁ世間でも許される範囲だろうが――その証拠として両者共に服を着ている。
おさなめの首回りにバスタオルをあてがい、真央の右手にはカラーリング剤が握られている。
真央は昨晩じっくり考えた。只でさえ人の目を奪う外見をしているのだからせめて髪色だけでもどうにかならないものだろうか。
これでは見つけてくれと言っているようなもの。おさなめが誰から逃げているのか定かでないが、あの怯え方は尋常でない。見付かってはいけないということだけはよく分かる。
眠っている間も夢にまで苛まれていた。おかげで真央の部屋はひっちゃかめっちゃかである。幸い壁に穴を開けたりなんてことはないが、テーブルの中央に風穴を開けられたり、カーテンが破れたり、とにかく今度ホームセンターに行こうという気になることばかりが続いたのだ。
目を覚まして自分がやらかしたことに気が付いたおさなめは泣いて謝ってきた。こんな時でも少女は無表情だった。
「わたし、悪い子。まお、嫌う」そんなことを言うから「“ごめんなさい”と“ありがとう”が言える子はイイコの証」と少女の頭を撫で回した。
そして、今日。真央は薬局へ行ってカラーリング剤を購入してきた。まずはその髪色をなんとかしよう。こんなに綺麗な髪を染めるのは勿体ない気もするが、おさなめのためだ。
いつどこで誰が見張っているか分からない。周りは全員敵だ。
色染めをしたことがない真央は説明書を隅から隅まで読む。もしも失敗しておさなめの頭皮になにかあっては大変だ。
「しみるとかあったら言ってね」
コクりとおさなめは頷く。
慎重に慎重を重ね真央はついに付属品である手袋を装着して根元から染めにかかった。
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