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――
20分経ったのでおさなめの髪を洗い流す。人間用のカラー剤だったので染まるかどうか不安だったけど、案外上手くいくものだ。
物の見事に白銀から黒へと変貌を遂げた。
鏡に映る新しい自分の姿におさなめの目は心なしかキラキラしているように見えた。
「まお、同じ……!」
「そうだねお揃いだね」
「ね、似合う?」
「うん。よく似合ってる。可愛い」
「まお、褒める、やった!」
その弾んだ言葉とは裏腹に頬はピクリとも動いていないのだが、喜んでる手前水をさせない。
鏡の前でくるくる回るおさなめを見て、やっぱり女の子だなぁとしみじみ思った。
……ただ、16回目の「かわい?」にさすがの真央も質問疲れをした。
第一の関門はこれにてクリア。
どちらかと言うと次が問題だ。
真央にとってもおさなめにとっても死活問題となる。
――“吸血”だ。
自分の寝室にて、真央はおさなめを正面に座らせる。
首を捻る少女はこれから先言おうとしてることを少しも察していないらしい。
「おさなめ、踊り飲みの練習をしよう」
人間である自分が言う台詞ではないだろうに、真央は至って真面目だ。
昨日は状況が状況だっただけに咄嗟に自らの腕を裂くことになったが、毎度毎度そのような飲ませ方じゃ此方の身が持たない。
毎日のように千影達のサンドバックを務めておいてなにを言うと思うかもしれないが、それはそれ、これはこれなのだ。
望んでもないのに傷付けられるのと、自ら率先して傷付けるのとでは大いに異なる。
噛まれるのも相当な痛手であるには違いないが、まだ健全な方法だと思う。
「ここに、ガブッて噛み付くんだ」
「ガブ?」
「そうすることが可能な牙を君は持ってる」
人間が吸血鬼に吸血の仕方を教える様は端から見てシュールであろう。
けれどもこのままおさなめが吸血鬼でなくなるのをみすみす放ってはおけない。
今の少女の親は自分だから。
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