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躊躇しがちながらも真央の言いたいことを大半理解したおさなめは、昨日同様自身の首元に顔を近付ける。
ペロリと肌を舐められた。
そして――
皮膚を突き破るにはほど遠い前戯に近い甘噛みを始めるのだった。いやいやちょっと待て。
「ストップ」
「……?」
小さな体を引き剥がした真央はドッと疲れが沸いて出る。首を傾げるおさなめにわざとかとは言えなかった。
「あのね、おさなめ。噛むってそういうことじゃなくて」
「だって、きっと痛い」
「そうだね! でもこれの方がもっと痛かったから!」
幼女相手に声を荒げてしまうとは情けない。おさなめは他人の痛みを思える優しい性格なのだと思う。それが吸血鬼にとって良いかどうかは知らないが。
真央は包帯をまいた左手首をこれみよがしに見せる。
これを今持ち出すのは卑怯だと思う。でもこっちだってタダではないことを分かって欲しい。
おさなめは唇をキュッと固く結ぶ。
「……ごめん。大人げなかったね」
「まお、悪くない」
「そもそも今までしなかったことをいきなり『しろ』って方が無理だよね」
ハハハッと苦笑いする真央におさなめは下を向いて考える。
――出来ないことではなかった。
おさなめが自身に『能力』を使えば。
でも、それではダメなのだ。
そこに己の意志が伴わなければ、意味がない。
「おさなめ、血って毎日飲まなきゃいけないのか?」
「しゅー、いち」
「そっか。なら次の吸血までに俺がなんとかしてやる」
なんで、この人は突然現れたわけの分からない存在に底なしに優しくしてくれるんだろう。
人間は食料。そんな風に教えられてきたおさなめは戸惑うしかなかった。
綺麗事や建前ではなく本音で言ってのけるんだ、真央は。
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