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――
金のメッシュを入れた男は、人を殺したことがあるような顔を歪めて肌がくりだちそうなほどのピリピリとした空気を纏っていた。
友達や恋人ときゃっきゃうふふんだった人達もこの面を視界に映した瞬間から笑みが消えていく姿に、男の仲間である銀のメッシュを入れたその人は苦笑う。
まるでこの世の幸福を不幸にかえかねない不機嫌さだ。
「あいつ、学校こなくなっちゃったね」
「……チッ」
その名前を出すなと言いたげな男の視線が突き刺さる。――向山千影は、ちょうど目の前に立つ電柱に蹴りを入れた。
通行人の肩が跳ねた。
「もう一ヶ月だっけ。結構持った方だと思うよ。なぁ、祐司」
「そうだな。今までは三日持たず、といったところか」
銀メッシュ――もとい宮村翔真(みやむらしょうま)は隣に並ぶ青メッシュ――浅野祐司(あさのゆうじ)に話を振る。
祐司は機械のように無感情な声でそう返した。
「ほら、祐司だってこういってるわけだし。だからさ、次の玩具みつけ――」
再び電柱を蹴った。心なしか一度目よりも強く。
「俺に指図すんじゃねぇ」
翔真と祐司は互いに顔を合わせる。今までにない執着。これはあの少年が自殺するまで続くのではと思われた。
いらないことを言ったか。この友人を怒らせても良いことなんて一つもないので「ごめん」と翔真は素直に謝った。
千影は青葉高校に入ってわりと直ぐに佐倉真央に目をつけた。この学校に手違いで入ったとしか思えない異色の少年。
翔真と祐司は中学の時から千影とつるむようになったが、彼はそんな自分達も吃驚するぐらい短格的な思考を持っている。
感情だけで突き進むような人間で、口よりも手が出るタイプ。此方に被害が及ばなければ見ている分には面白い。
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