第一回チキチキ~

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 周りの人間は千影のどこに翔真達を引き寄せる要素があるのだと首を捻るが、こんな素直な人間他にいない。多分祐司もそこに惹かれて一緒にいるのだと思う。  ――だから、今回のことは解せなかった。  確かに真央はどの角度から見ても凡人の枠から抜け出せない外観で、あの従順な性格はパシリや財布にするのにはピッタシの存在だ。  千影が自分の機嫌一つで手当たり次第に物や人を痛め付ける人種であるのは認めよう。だけど、彼はまた飽き性なのだ。  大方遊べば満足する質で――やられた方はたまったものじゃないだろうが――不登校になりつつある少年に対してそこまで彼の中の何かを奮い立たせるのは異例のことだった。  翔真も最初のうちは少年をなぶるのを楽しんでいた口だが、彼が学校にこなくなった今どうでもよくなった。  一体少年の何に友人は憤りを感じているのだろう。  千影のことはある程度熟知していると思っていただけに、それが自惚れであったことを知る。 「千影、あいつの番号とか知らないの?」 「あ゛ァ? んな気色わりィもん知ってるわけねぇだろ」 「……そう」  唾を吐くようにそう言う千影は次いで舌打ちをする。彼の性格から考えてその線は有り得なかったかと反省する。  仮に知ってたとしてもまず向こうは出ないだろう。そしてそれが余計に千影の機嫌を悪化させていたかと思うとかえって知らなくて良かったかもしれない。  真央と同じ中学出身者は予想通りあの高校にはいないため必要最低限のことしか真央に関して知らない。  ――今の千影なら家に火ぐらいは放ちそうだと友人ながらに思う。  いくら憧れているからと言っても、犯罪者の友人は流石に遠慮したい。否、普段から犯罪スレスレの千影にこれはないか。ならば、人殺しの知り合いは勘弁して欲しい。  気分転換にボーリングでも誘おうかと千影の背中に声を掛けようとしたその時――翔真は見た。  銀行前でマネキンのように動かない小さな生物を。  
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