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入学式では出席者よりも欠席者の方が多く、授業を真面目に聞く者は一人もおらず。真央はもしやとんでもないところにきてしまったのではないかと頭痛を覚えた。
一律の乱れも許さないというような、この学校で毛色の異なる真央はクラスメイト達の格好の餌だった。
中学時代の真央は決して人に意見され流されるようなタイプではないけれど、入学して間もない頃にクラスのボス猿的な人種に胸ぐらを掴まれて「テメェ今日から俺らの玩具な」と言われたら首を縦に振らざるをえない。
ここが共学ではなくて男子高校なのもそういうわけである。肉食獣の檻に子羊を放つようなものだ。強姦、なんてことになったらさすがに学校側も対応しきれなくなるのは火を見るより明らかだった。
今日はそのボス猿――名前を上げれば向山千影(むこうやまちかげ)にムシャクシャしているからという理不尽な理由で長時間殴られ続けた。「ハッ、いいサンドバッグだぜテメェはよ」と鼻で笑う千影の取り巻きも同じように嘲っていた。
一応は手加減しているのか骨までは折れていないが全身に引きつるような痛みが走るのだけは確か。
時刻は丁度夜の9時を回ったところ。つまりそれまで真央は千影から殴る蹴るの暴行を受けていた。
途中で力尽きた真央は公園へ立ち寄り、ベンチに横になる。こんなところで道草食ってれば今度は別の不良に絡まれるのは分かっているが限界だった。
いっそのこと蛇の生殺しみたいなことをしないで殺して欲しい。そうしたらこの生き地獄から解放され、楽になれるのに――
千影達の玩具にされても真央が学校に行くのは、もう真央には何も残されていないからだった。
親の期待を裏切り、弟からは兄として認識されない真央にはこの高校へ通う道のりしか残されていなかった。そうとは知る由もない千影達は「テメェは真正のマゾヒシトだな」と馬鹿にしたようにせせら笑う。
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