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腰まで伸びた白銀の髪はゆらゆらと夜風に靡く。くりくりの瞳は今にも溢れ落ちそうな程大きくて、感情をどこかに忘れてきたような色を宿す。――詰まるところ、能面だった。
只でさえその奇抜な外観に真央はギョッと両目を見開かせたと言うのに、少女はこの世のものとは思えないぐらい整った顔をしている。
対する真央はよくも悪くも凡庸で、唯一偏差値が水準より高いので「勉強が出来る奴」ぐらいにしか人々の記憶に残らない面白味のない容姿だった。それも今となっては「受験に失敗した奴」と180度見方を変えられるのだろうが。
一度も染めたことがない黒髪は耳より下まであり、定期的に美容院で切り揃えられた学生は本来こうあるべきだをまさしく表した髪型であった。
これでは千影達に目をつけられるわけだと真央自身が一番分かっているが、今更自分という人間を変えられるわけもなく、無理して不良の真似事をしても何れはボロが出る。それと、昔から己に嘘をつくことを嫌う頑固な性格も手伝って。
「お腹、空いた」
表情筋が死んでるんじゃないかと心配になるぐらいやはり少女は無表情だった。と言うかこの子の親はなにやっているんだと真央は別のことに囚われる。こんな夜遅くに出歩くのを許される年齢ではないだろうに。
18未満の真央とてそれは同じであるが、高校生の自分よりもまだ小学校にすら通っていない幼さを感じさせる少女の方が大問題だった。
それに自分は男だからせいぜいチンピラに絡まれるだけで済む話だけど、こんな可愛い少女をもし偶然変質者が目に入れたらどうなることか。
「お腹、空いた」
「えーっと、ごめん、今なにも持ってないんだ」
機械のように一本調子で話す少女に真央は眉を下げて答えた。嫌な予感が脳裏を過る。この時間に外出、そして空腹の訴え、まさかと思った。
――ネグレクト?
育児放棄。真央はなんとか動く指先でこめかみを押さえた。白いフリルのついたワンピースに身を包み、汚れてるところは一つもない。だけど、この少女のたどたどしい喋り方といい、疑惑は確信へと迫る。
真央を舐めるぐらいお腹を空かせていたのかと自分のことのように心を痛めた。信じられない。こんなにイイコそうに見える少女を放っておくなんて。
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