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あれはまだ妹が幼稚園の頃だった──
家族全員居間でくつろいでいた時、妹が突然、『もうすぐ、となりのおばちゃんが来るよ』と叫んだ。その予定など誰も知らないのに、妹は玄関に立つ来客を言い当てた。それも何度もだ。
それからこんな事も──
車にはねられ踞る子犬に駆け寄り、『かわいそうに、かわいそうに』、と子犬の身体を撫でると、みるみる傷が消えていった。
そして子犬に語りかけると、まるで会話をしているように、子犬が返事したのだ。
まだある──
食事中梓に、目の前の醤油を取ってくれと頼んだら、その醤油瓶がふわりと浮いて、俺の手元に届いた。驚いた。
それから梓は、オモチャでも手にしたように家中の色んな物を浮かせて遊んでいた。
だがある日、神主をしている祖父が、『梓よ、お前のその能力はいずれ正しい使われ方をする。それまで使っちゃいかん』、と梓をたしなめた。
その言葉がまるで封印のように、梓の能力はピタリと止んだ。
本人は覚えていないのだが、祖父は何故か妹の能力に納得した様子だったのが印象的だった。
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