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「第三の選択……」
快活に語っていた太田黒が、一転押し黙る。何か逡巡するかのように、目がせわしない。
そんな太田黒に、わずかにざわめきが起きる。それを察した隣に座る佐川官房長官が軽い咳ばらいをみせ、「首相……」と小声で促す。
はっ、と太田黒の目に光が戻る。
得意の雄弁を披露し始めた。
「第三の選択ですか?
それはあくまで空想の物語であって、現実味に乏しいと思われます」
再度、太田黒が胸を張る。
「我々がまず考える事、なすべき事は国民の安全確保です。
一人でも多くの同胞を助ける道を探る事が、わたしを始め、皆さんに課せられた使命です。
いや、義務だと言ってもいい!
いいですか皆さん。
わたしは政治生命はもとより、命を張ってこの問題に対応していく所存です。
皆さんにも同じであって欲しい、それゆえ今この場に居られる皆さんは、本日より特別国家公務員の任に就いていただきます。
私人でなくなった以上は秘密厳守で、国民のために尽くしていただきたい!」
政治家らしい弁舌だ。
公人である以上は、たとえ形だけでも私心は見せられない。
なおかつ──関係者を公務員に仕立てる事で責任感と義務感を自覚させつつ、同時に国家最高機密というフレーズで自発的に口封じさせた。
実に上手いやり方だ。
そのせいか出席者達は高揚し、顔さえ締まって見える。
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