彼方からの贈り物

17/24
前へ
/27ページ
次へ
  「第三の選択……」 快活に語っていた太田黒が、一転押し黙る。何か逡巡(しゅんじゅん)するかのように、目がせわしない。 そんな太田黒に、わずかにざわめきが起きる。それを察した隣に座る佐川官房長官が軽い咳ばらいをみせ、「首相……」と小声で促す。 はっ、と太田黒の目に光が戻る。 得意の雄弁を披露し始めた。 「第三の選択ですか? それはあくまで空想の物語であって、現実味に乏しいと思われます」 再度、太田黒が胸を張る。 「我々がまず考える事、なすべき事は国民の安全確保です。 一人でも多くの同胞を助ける道を探る事が、わたしを始め、皆さんに課せられた使命です。 いや、義務だと言ってもいい! いいですか皆さん。 わたしは政治生命はもとより、命を張ってこの問題に対応していく所存です。 皆さんにも同じであって欲しい、それゆえ今この場に居られる皆さんは、本日より特別国家公務員の任に就いていただきます。 私人でなくなった以上は秘密厳守で、国民のために尽くしていただきたい!」 政治家らしい弁舌だ。 公人である以上は、たとえ形だけでも私心は見せられない。 なおかつ──関係者を公務員に仕立てる事で責任感と義務感を自覚させつつ、同時に国家最高機密というフレーズで自発的に口封じさせた。 実に上手いやり方だ。   そのせいか出席者達は高揚し、顔さえ締まって見える。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加