彼方からの贈り物

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  会議を終え首相専用室に戻った太田黒は開口一番、「どこのバカだ、第三の選択なんぞ抜かしやがった奴は!」、と声を荒らげた。 言いつつソファに激しく巨漢を沈めた。 来年還暦を迎える脂ぎった顔は、怒りが(あらわ)だ。テーブルの葉巻を押し込むようにくわえた。 すかさず火を点ける佐川が取りなすかのような口振りで、「社会心理学の教授です」、と答える。 面白くなさそうに太田黒が吐き捨てた。 「あの場であんな発言しゃがって、焦ったじゃないか。空気も読めないようなバカは絶対に『乗せない』からな!」 怒りのメーターを振り切った太田黒に、佐川も前園もピリピリして姿勢をただしている。普段は親しみ深い笑みが売りで、庶民の味方を掲げている太田黒だが、実は性格は激しく自己主張が強い男だった。外では見せられない裏の顔だ。 だが、政治家としての手腕は高く、最大与党である民自党の首相を二期八年務めあげ、現在は三期目に突入している。 日本には珍しく長期政権だ。それゆえ専制的なのは歪めない。 揉み手をしそうな勢いで前園が機嫌を窺う。顔に浮かぶは卑屈な笑みだ。 「しかし、実際には第三の選択は進んでいるんでしょ。民間レベルでも、火星移住計画『マーズワン』が動きだしていて、2025年には火星に20万人を送り込むとか聞いてますが……」  
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