彼方からの贈り物

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  憮然とする太田黒をちらっと見た後、佐川も笑顔ですり寄る。我が身可愛さが為せる保身だ。 「首相、実際のところはどうなんでしょうか。日本も火星探査機『のぞみ』を打ち上げましたが、どうも上手くいってないようですし……」 すると一転、太田黒は低く笑い出す。すぐにその笑いは大きな高笑いとなった。 佐川と前園は、虚をつかれたような顔になる。何が可笑しいのだろうか。 そして、太田黒から思いもよらない言葉が落ちてきた。 「今やってる火星移住プロジェクトは、すべてダミーだ。国民を騙すためのエサのようなものだ」 ──ダミー? ──エサ? 二人は怪訝な顔つきになった。 「そうだった、君たちには話してなかったな」 ますます怪訝な二人だ。 このように勿体ぶる太田黒には、しばしば苛つかされることはあるのだが、実力者の太田黒に逆らう術が、二人にあろう筈がない。下から下からと話を切り出す。 「何かわたしたちが知らないことでも……」 薄笑いを引っ込め太田黒は眉をつり上げた。こんな顔をする時の太田黒は機嫌が悪いか、真剣な話をするかのどちらかだ。今回は──。 例えばだ── 「バナナを見た事がない人間に、トマトの写真を見せ、味や原産地などの詳しい情報を与えたら、その人間はトマトをバナナだと思い込むだろう。 だが、どこから発せられた情報かで信用度が変わる。 もしそれが一個人ではなく、政府からの情報だとしたら、にべもなく信じるだろう。 政府が言ってるんだから、国のする事だから間違いないだろう……とな。愚かな衆人意識だ。 だが、それにつけ込み、上手く騙すのが政治というものだ」 言いおいて、殊更に語気を強めた。 「いいかね、国民に真実の全てを知らせる必要などない! 知らせる必要のない事は国民も知る必要はない。国民に考えさせない事も、時には必要だ。その国民を意のままに動かせる人間こそが政治家だ。国民はそれで幸せになれる!」  
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