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唖然とする佐川と前園だ。
二人の頭に同時に二文字が浮かぶ。
──洗脳
太田黒には、国民の知る権利という民主主義の大前提は、塵ほども無いようだ。
さらに、太田黒の弁は続く。
「今、アメリカや日本が行っている火星移住プロジェクトは、わざと結果をだしていない。
極秘裏に開発している、ある宇宙船に目を向けさせないようにな」
佐川が唾を飲込み、おずおずと尋ねた。
「しゅ、首相……その宇宙船とは……?」
太田黒がにやりとし、それからゆっくりと口びるの端を上げた。
「アメリカはすでに、火星まで自由に飛ぶことが出来る宇宙船を開発してるんだよ」
驚きだ。
火星へ向けた探査機が失敗する理由は、ロケットの技術的な問題より通信手段に難があるから。
地球からロケットに指令電波を送っても4分以上かかる。その為、故障等の不測の事態が起きても、通信のタイムラグで対応や指示が遅れる、だから難しいと聞いている。
なのに……それは騙すための方便で、すでに宇宙船を開発済みとは。
太田黒は薄笑いをやめ、剣呑(けんのん)な顔つきになった。その目は冷たく、身体からは強い気が発せられている。策略家、太田黒の本来の姿だ。
「佐川、君はロズウェル事件を知ってるかな?」
──ロズウェル?
いきなり話が飛んだ。
問われた佐川が天井に目を移し、記憶の断片を繋ぎ合わせる。
たしか──
「1947年に、アメリカのニューメキシコ州に未確認飛行物体が不時着して、宇宙人が回収された……と言う都市伝説ですよね」
「都市伝説?」
太田黒はまあいいか、とあっさり頷き話を続けるが、それは驚くべき内容だった。
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