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佐川と前園は、それこそ開いた口が塞がらない状態だった。
そんな事が出来るのか?
だが、実際に金は流れて行ったようだ。
おそらく出来る!
この男なら……。
売国奴──
古き言葉が頭に浮かぶ。
だが、それを指摘する勇気など、今の二人に有るはずもない。
勝ち誇るかのように、太田黒が怪気炎をあげる。
「だから、ダラスは日本に……。いや、この俺に逆らえない!
もしもそれがバレたら大統領を失職する。そうなると当然、『希望の船』にすら乗れなくなる。
一年半後に、惑星がぶつかって死ぬだけだ。
それから、日本人の誰を船に乗せるのかは、俺がダラスに任されている。
お前達も今の話を他所に漏らしたり、俺に歯向かうと船に乗れないぞ」
言った後、蛇のように笑う。
恐い。今日ほどこの男を、心底恐いと思ったことはない。
だが、この男に着いていけば──助かる。死ななくて済む。奴隷になっても生き延びてやる。
視線を合わせる佐川と前園の思いは同じだ。
深々と太田黒に頭を下げた。
「二人に命ずる。火星移住後に必要となる人材を早急にリストアップしろ。
衣食住のスペシャリストから、エネルギーやロボット関連の、ありとあらゆる分野からだ」
「はっ! 早速選出して協力を仰ぎます」
ドン!
太田黒が激しくテーブルを叩いた。
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