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いや、確かに、文句なく美女だ。腰までスッと伸びる長い黒髪、刃物のように鋭いが、透き通って見える瞳。無駄なく引き締まった身体。美しく伸びる足。
――だが、この女生徒は異常だ。
そんな女性らしい魅力よりも、まず目につく特徴がある。
顔を除く全身に真新しい傷があるのだ。それも大量に。
そして、俺が息を飲んだ理由にはもう一つある。
――鋭く、まるで全てのものが敵であるとでも告げるようなあの瞳に、俺は見覚えがある。
「花島御月さんだ。お前ら、仲良くやれよ。じゃ、花島。適当に挨拶してくれ」
――花島、御月。
担任の告げた名前が、枯れていた俺の心に強く響く。胸の動悸が、止まらない。
自分の心臓が忙しなく活動しているのを強く、強く感じる。
「…………」
花島御月は教室に入ってきたときから俺をじっと見つめてくる。
――まるで、何かを待っているかのように、何かを見極めるように立ち尽くしている。
「………………」
花島御月は一向に喋る気配がない。
……これは、俺から何かいった方がいいのか?
もし、あいつが俺の知る御月で間違いないのなら、第一声はやはりこれだろう。
「――綺麗な顔、してるね」
「……っ」
花島御月はその瞳をほんの僅かではあるが揺らし、その後、安心したように口を開いた。
「――ふん、実に久しいな香介。お前を愛してやまない健気な幼なじみが会いに来てやったぞ」
――俺の見る色あせた世界に、少しだけ彩りが戻った気がした。
「ふおおおおおおおおッ! お、幼なじみだと!?」
「な、なんて甘酸っぱい言葉なんだ!」
「なぜあいつなんだ!? あいつよりは俺の方がイケメンのはずだ!」
御月が爆弾発言をぶっ放した直後、クラスの有象無象共が一斉に騒ぎ出した。
我がクラスの男子、本日二度目の発狂だ。本当に、このクラスは退屈しない。ノリがいいというか、単純というか。
俺は立ち上がり、駆け寄ってくる男子生徒一同にありったけの愛を込めて応戦しようと試みた。
――だが、御月の放った一言によりそれは蛇足に終わる。
「黙れ、カス共」
………………………。
…………。
……。
我がクラスの問題児達を長い期間相手にしている担任でさえ、こいつらの暴動を止めるのに十分もかかったというのに、御月はわずか一秒で暴動を止めてみせた。
それだけ御月の放った低い声と、場を凍らせる威圧感は強烈であった。
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