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恐怖にやられたのか、中には下を向き、震えている生徒もいる。
自分から場をかき乱すような発言をしておいて、『黙れカス共』と言う御月に若干の理不尽を感じつつも、何も言うことができない。
俺はこの凍てつくような威圧感に耐性があるのだが、この暴君っぷり、放たれる威圧感、眼力。やはり間違いなかった。
こいつは――幼い頃、突如俺の前から姿を消した幼なじみだ。
◇◆◇◆
――これは、俺がまだ幼い頃。浜辺の森に秘密基地を構えていた頃の話。
当時の俺は家庭の事情から昼の間、外で過ごすことが多かった。
その日の俺はいつものように秘密基地に荷物を置き、海岸に移動して食材を採っていた。 海岸では海藻や貝がよく採れた。釣りをして魚を捕ったり、潜ってモリで魚を突くこともあったが、基本的には海藻や貝を食べていた。
海藻や貝をとって秘密基地へと帰る途中、いつもの森では聞くことのない異質な音が聞こえてきた。
いつもは静かな森に現れた異質な音に驚いた俺が振り向く。
――そこには、猪を引きずっている少女がいた。
『……す、すごいね。その猪はどうしたの?』
『…………』
『そ、その猪は食べるの?』
『…………』
『僕はこれからこれを料理しようと思ってたんだけど、よかったら君も一緒に食べない?』
『…………』
当時の俺が何を言っても全く反応してはくれなかった。その少女は、酷く警戒した視線を俺に向けてくるだけ。
『えっと、あっちに僕の秘密基地があるんだ。竈もあるし、ご馳走するからついてきてよ』
秘密基地に向かって歩き出した俺の背後を、少女は二十メートル程の距離を開けてついてきた。ズルズルと猪を引きずる音が、なんだか普段とは違う状況を演出していて、不覚にも俺は胸がときめいてしまった。
――といっても、それは別に恋ではない。なんの面白みもない日常から逸脱した出来事に対する期待だった。
やがて秘密基地に着いた俺は、竈に火を入れ、背負っていた荷物から取り出した調理道具を使い簡単な料理を作った。
俺の背中の荷物には、外で生活する上で必要な物が大量に入っていて、俺はこいつをいつも持ち歩いていた。
普段から家や秘密基地でよく作っている料理だが、その日の調理は二人前。自分の作った料理を、母親以外の人に食べてもらえるのがどこか楽しみだった。その時の胸の鼓動は今でもつい昨日の事のように思い出せてしまう。
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