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私は男の子の方へ向き直した。
「たくみくん、ていうの?」
「うん。鷹司巧」
「鷹司?」
鷹司と言えば、私の通っている学校の理事長の名前だ。
理事長には、確か小さな子供がいると前にお母さんが言っていた。
この子がそうだったりして。
“鷹司”なんて、そんなにありふれた名字じゃないし。
このピアノ教室はかなり有名で、大体通っている子はお金持ちばかりだから、理事長の子というのなら頷ける。
「巧くんて、何歳?」
「んーと、4歳」
「ふーん…」
巧くんが、その小さな手の指を四本たてる。
4歳、てことは私の5こ下だ。
「お姉ちゃんは?」
「ん?」
「お名前」
「私は、須田麻貴乃」
「じゃあ、まきのお姉ちゃんだね」
そう言って巧くんはにっこりと笑う。
よく見てみると巧くんの瞳は、透き通るような綺麗な灰色をしていることに気がついた。
(ハーフ?あれ…でも理事長も、理事長の奥さんも日本人だし…やっぱり関係ないのかも)
そんなことを考えていて私が巧くんから目を離すと、バサバサと何かが落ちる音がした。
慌てて目を向けると、そこには巧くんが引っ張りだしたであろう棚にしまわれていた楽譜が散乱している。
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